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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)4949号 判決 1998年4月15日

滋賀県大津市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

今村憲治

松川正紀

進藤裕史

名古屋市<以下省略>

被告

岡地株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

山岸憲司

上野秀雄

今村哲

市川充

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、二一二九万一六三八円及びこれに対する平成八年一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、a大学法学部を卒業後、平成三年からb学院に勤務しているものである。

(二) 被告は、商品先物取引の委託業務等を目的とする株式会社である。

2  取引

原告はそれまで先物取引の知識、経験が全くなかったが、平成四年一一月頃被告の従業員から先物取引の勧誘を受け、平成五年九月頃から被告の言われるままに原告の名前でなされた取引は、別紙売買取引一覧表(1)ないし(3)のとおりである(別紙売買取引一覧表(1)ないし(3)の取引を、以下場合により「本件取引」という。)。

3  被告の責任原因

(一) 違法な勧誘行為

(1) 先物取引の危険性についての告知義務違反

全国の商品取引所が定めた指示事項「以下「指示事項」という。)及び受託契約準則(以下「準則」という。)は、先物取引の仕組みや危険性の不告知(すなわち、投機性の説明の欠如や非常識な勧誘)を禁止しているところ、被告の従業員は、原告に対して先物取引を勧誘するに当たり、先物取引の仕組みの概要を説明したにとどまり、その特殊性と危険性について説明せず、かえって、「資金を三分割していけば、絶対に損をすることはない。」とか、「両建にしておいて相場の様子を見ながら決済していけば、先物取引のリスクを回避することができる。」等と述べて、誤解を与えるような言動をした。

右の指示事項及び準則は、顧客の保護を目的としたものであるから、これに違反した被告の従業員の行為は、私法上も違法というべきである。

(2) 断定的判断の提供

商品取引所法(以下「法」という。)九四条一項、商品取引所の定款(以下「定款」という。)は、顧客に対し、利益が生じることが確実であると誤解されるべき断定的判断を提供して商品取引の勧誘をすることを禁止しているところ、被告の従業員は、原告に対し、「株券を預ければ、株の配当利益と相場の利益の両方を得ることができる。」とか、「金が今史上最安値で絶対に儲かる。」、「銀がそろそろ高値にきているので、今売りで始めると必ず儲かる。」等と説明して勧誘した。

右の法及び定款の定めも顧客の保護を目的としたものであるから、これに違反した被告の従業員の行為は、私法上も違法というべきである。

(二) 両建玉

指示事項は、両建玉等の不適切な売買行為を禁止しているところ、東京銀の取引において、別紙売買取引一覧表(2)の3ないし5と、6、7の取引が、売り六五枚、買い六五枚で両建玉、同表8と9の取引が、売り三〇枚、買い三〇枚で両建の関係に立ち、同表の13の取引で売り三〇枚を建てた翌日に、14で買い三〇枚を建て、両建となっている。さらに、同表21ないし26の買い計一二〇枚と、27、28及び30の売り計一二〇枚が両建になるなど、被告の従業員は原告をして無意味な両建をさせた。

また、東京ゴム取引において、別紙売買取引一覧表(3)の1ないし3の売り計八〇枚と同表の4、5の買い計八〇枚が両建玉となっており、同様24の売り一〇枚と、26の買い一〇枚が僅か四日の間に両建玉になっている。さらに、同表の34の買い一〇枚と、35の売り一〇枚は同日に両建となっており、短期日中の無意味な両建になっている。

ところで、両建玉は、商品先物取引で損が発生した場合に反対の建玉をして相場の動向を見るためになされるものであるが、一方の建玉しか委託証拠金がかからなかった頃の仕法としてはともかく、そうではなくなった現在においては、手数料が二倍かかるだけの両建をする合理的理由はないから、右の事情と両建を禁止した指示事項の趣旨、目的に照らせば、右の両建に関する被告の従業員の行為も私法上違法である。

(三) 回転売買等

指示事項は無意味な反復売買を、法九四条三項はいわゆる一任売買をそれぞれ禁止しているところ、原告は、東京ゴム取引において、当初から被告に売買を一任していたが、別紙売買取引一覧表(3)の13ないし15の取引では、平成六年八月八日の前場一節で買い二〇枚を建てた直後の前場二節でうち一〇枚を仕切り、同場節で買い一〇枚を建て、さらに翌九日の前場一節で買い二〇枚を仕切って同場節で買い三〇枚を建てるなど、仕切った直後に新規の取引をなし、さらに取引の枚数が増加している等、委託手数料を負担する原告の利益を考えない過大かつ無意味な売買が繰り返された。同表9ないし15、18、19、22、23、33ないし35、36、37、40ないし43、46ないし48、51の取引も、いずれも長くて四日間、短いものは同日中に建玉を仕切っており、無意味な反復売買が繰り返されている。これらの取引は被告のみの利益を図ったもので、受託者の善良な管理者としての義務に違反する行為である。

(四) 無意味な反復売買に関するその他の事由

そのほか、本件取引には、多数回のいわゆる途転、両建玉(銀の取引については、平成五年一二月一六日から取引終了の平成六年一一月一七日まで、ゴムの取引については平成六年五月二三日から取引終了の平成六年一一月一七日までそれぞれ両建になっている。)、日計り、売りないし買い直し、手数料不抜けの取引があり、原告が銀の取引によって被った損金に対する手数料の割合は約八九・八パーセント、ゴムのそれは約三七・二パーセント、特定売買率は銀の取引が四三パーセント、ゴムのそれが九五パーセントであって、昭和六三年一二月二六日付農林水産省、通商産業省共同通達「商品取引員の受託業務の適正な運営の一層の確保について」の定める指導基準((1)特定売買の比率を全体の二〇パーセント以下にすること、(2)手数料化比率を一〇パーセント程度とすること、(3)売買回転を月間三回以内に止めること)をいずれも大きく超え、本件取引において、原告が、被告の手数料稼ぎのため無意味な反復売買をさせられたことは、明らかであって、被告の右行為は違法である。

(五) 公序良俗違反

(1) そもそも先物取引市場とは自然の異変や社会的突発事故による商品価格の激変の危険性を避けるために設けられた制度であるから、かかる市場に参加する者は、商品価格の形成について十分な知識と判断力を有する者であるべきであり、また、商品先物取引は委託証拠金の一〇倍ないし二〇倍の取引が行われ、取引の結果も委託証拠金と同額の儲けがあるか、委託証拠金全額を失うかといった投機性の高いものであって、かかる危険性について熟知した者が参加すべきである。

(2) また、先物取引の仕組みを理解したり、先物取引に関する特殊な専門用語を実用に供するようになるまでには相当の日数を要する上、先物取引のための幾つかの方法を駆使すること、とりわけ売りを建てて買いを戻すことを理解し、実行することは、一般人には困難である。

(3) その上、先物取引に関する過去の業界の経験、各種アンケート結果によると、ある時点をとらえてみて、先物取引により顧客が受託業者に対する手数料を支払ってなお利益を得る確率は三〇パーセント、第一回目の取引で利益を出した顧客のうち、第二回目の取引でも連続して利益を得る確率は僅か九パーセント、第三回目の取引まで連続して利益を得る確率は二・七パーセント、第四回目(〇・八一パーセント)、第五回目(〇・二四パーセント)となると、利益を得る者はほとんどない。これをみても、先物取引の危険性、投機性の高さは明らかであり、主務省の検査によると、利益を出して先物取引を終了した顧客はほとんどなく、反復売買を繰り返すうちにいずれ損失を出すことは、業界の常識となっている。

(4) 他方、顧客が損失を出す危険性は、逆に受託業者にとっては利益を得る可能性となる。すなわち、受託業者は、顧客からできるだけ多くの証拠金を出させ、これを売買差損や手数料名目で返還不能とすれば、受託業者に利益をもたらす仕組みになっている。そして、受託業者としては、委託手数料を増やすため、顧客一人当たりの売買枚数を増やし(過当売買)、売買回数も増やす(無意味な反復売買等)ことへと、短絡的に傾きやすい。

(5) このような性質を持つ先物取引について、被告の従業員が、その危険性、投機性を十分説明することもなく、かえって、「リスクは回避できる。」、「絶対儲かる。」等と言って、原告に先物取引を勧誘した行為は社会通念上許されるものではなく、原告の無知、無思慮、無分別に乗じた行為であって、公序良俗に違反するものである。

(六) 商品先物取引の受託業務に関する管理規則は、経験がないか又は浅い委託者に対しては、三か月間の習熟期間を設け、その間の建玉枚数を二〇枚以内とし、これを超えるときは管理担当班がその適否を審査することと規定しているところ、原告は、平成五年九月八日に東京金の買い五枚を建てて取引を開始した後、同年一二月七日まではその仕切りをしただけで、形式上右規則には違反しないが、この間被告から原告に対し先物取引に関する説明、案内、指導はなく、原告が先物取引に関し習熟したとはいえない状況であったから、同年一二月一六日になされた買い六〇枚、同月三〇日になされた売り一三〇枚の大量の取引は、実質上右規則に違反するものであり、被告の従業員の右取引に関する勧誘行為は違法である。

(七) 被告は、民法七一五条に基づき、被告の従業員の右(一)ないし(五)の行為により原告の被った後記損害を賠償すべき義務がある。

4  損害

別紙売買取引一覧表(1)ないし(3)の取引による原告の売買差損は八三九万三〇〇〇円であり、また、原告が被告に対して支払った手数料が一二五六万三八四〇円、取引所税及び消費税が合計三九万四五五〇円であるから、原告は、被告の従業員の本件不法行為により合計二一三五万一三九〇円の損害を被ったものであるところ、被告は、原告に対し、右損害金のうち五万九七五二円を賠償したから、残額は二一二九万一六三八円となる。

5  よって、原告は、被告に対し、本件損害金残金二一二九万一六三八円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年一月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の各事実は認める。

2  同2の事実中、平成四年一一月頃被告の従業員が原告に対し先物取引の勧誘をしたこと、原告が平成五年九月頃から別紙売買取引一覧表(1)ないし(3)のとおり、商品先物取引をしたことは認める。

3  同3、4の各事実は争う。

第三当裁判所の判断

一  原告がa大学法学部を卒業後、平成三年からb学院に勤務しているものであること、及び被告が商品先物取引の委託業務等を目的とする株式会社であることは、当事者間に争いがなく、甲第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和六三年頃から株式の現物取引をし、三〇〇〇万円以上の資金を運用していたことが認められる。

二  原告が、平成四年一一月頃被告の従業員から先物取引の勧誘を受け、平成五年九月頃から別紙売買取引一覧表(1)ないし(3)のとおり、金、銀及びゴムの商品先物取引をしたことも、当事者間に争いがない。

三  原告は、請求原因3のとおり、被告の従業員の勧誘行為等に違法があったと主張し、甲第二号証及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う趣旨の記載及び供述部分がある。すなわち、右の記載及び供述部分によると、(一)原告は、平成四年一一月頃被告の従業員であるB(以下「B」という。)から先物取引の勧誘を受けたが、それまで先物取引についての知識、経験がなく、先物取引は怖いというイメージがある程度であったところ、その後右Bや当時のBの上司C課長から執拗に綿糸や金・銀等の商品先物取引を勧誘され、その際、「とにかく一〇〇万円でも預けてくれれば、直ぐに儲けて元金はお返し、後は利益分だけでやっていきます。」とか、「絶対に儲かります。損はさせません。」、「とにかく私たちを信頼してくれ。」等と繰り返し言われ、平成五年四月には、C課長の後任のD課長からも同様の勧誘を受けたほか、「両建にしておければ、リスク回避の手段になる。」とか、「手持ち資金を三等分しておけば、二回追証がかかっても持ちこたえられるから大丈夫である。三回も追証がかかることは絶対にない。心配しないでください。」、「私たちに任せてくれれば、絶対に儲かります。」等と言われたので、被告との間で商品先物取引の委託契約をするようになった、(二)BやD課長は、金の先物取引を勧誘した際には「金が今市場最安値で絶対に儲かります。」と、銀の先物取引を勧誘した際には「Bは銀の相場を専門に継続して研究している。銀のプロです。夏の銀の暴落もBだけがあてている。そのBがそろそろ銀が高値に来ていると言っています。今度は銀を売りから始めましょう。必ず利益が出ます。」と、ゴムの取引を勧誘した際には「銀の値動きが止まっているので、両建にして様子を見て、その間にゴムの取引をして、銀の損を挽回しましょう。絶対に儲かりますから、任せて下さい。」と述べた、(三)銀の取引で損失が生じ、追加委託証拠金を預託すべき事態になった際、D課長から「私は課長の肩書があり、十何年もこの仕事をしているプロなので、私のことを信頼してください。」と言われたが、原告は、損をしないため、D課長の言うことに従わざるをえず、その後の売買や入金は、全てD課長の指示に従ったもので、原告が海外旅行に行っている間に勝手に売買された取引もあったというのである。

しかし、そもそも証券取引市場や商品先物取引市場における取引が必然的に損失発生の危険性を伴うことは自明のことであって、損失を被る危険を負担するからこそ、高利益を取得することも正当化されるものというべきところ、原告のような学歴、経歴のある者がそのような事実を知らなかったとは考え難い。しかも、原告本人は、商品先物取引について怖いというイメージを持っていたというのであり、Bから最初の勧誘を受けてから、実際に金の先物取引を始めるまで約一年二か月の期間があり、この間にBらから商品先物取引の仕組みについて説明を受け、「商品先物取引委託のガイド」と題する冊子(以下「商品先物取引委託のガイド」という。乙第六号証によると、右の冊子には「商品先物取引の危険性について」という項目があり、この点の説明がなされている。)を受領したほか、頻繁に商品の説明を受け、商品先物取引の勧誘を受けていたことを自認しているから、原告は、被告との間で商品先物取引の委託契約を開始するまでの間に、商品先物取引の危険性等について具体的に検討し、熟慮する機会もあったものといわなければならない。その上、原告本人は、金の先物取引の委託をした際には、被告の従業員の助言を入れず、自分の判断で取引枚数を五枚にしたこと、銀の取引を開始した際にも、原告が指し値でその取引を委託したものであることを自認し、他方、被告訴訟代理人から、本件取引のうち自分の意思ではないもの、あるいは原告が納得のいかない売買というのはどの点かと質問された際、具体的な指摘をすることもなく、曖昧な供述に止まっている。さらには、原告本人は、前記の商品取引委託のガイドを受領しながら、良く読まなかったとか、多額の資金を投入しながら、被告から送付されてくる商品先物取引に関する売買報告書にも良く目を通さなかったというのであるが、自分の計算で商品先物取引が行われている者の態度として極めて不自然である。

右の諸事情や後掲各証拠に照らせば、甲第二号証及び原告本人尋問の結果中前示の記載及び供述部分並びにその他請求原因3に沿う趣旨の部分は、にわかに採用し難く、他に請求原因3の事実を認めるに足りる証拠はない。

かえって、乙第六号証、第一二号証、第一三号証の各証、第一七号証、第一八号証の各証、第二〇ないし第二八号証、第三三ないし第三六号証、証人D、同Bの各証言によれば、(一)Bは、平成四年七月に営業のため原告の勤務する日本語学校を訪問し、同校のE先生の話から原告を知ったが、同月八月に改めて原告と連絡をとり、当時の上司のC課長と一緒に原告と会い、先物取引の値段表が記載されている日本経済新聞や商品先物取引委託のガイド等を持参した上、具体的例に基づきレポート用紙に書きながら、商品先物取引の仕組みやどの時点で追加委託証拠金の預託義務が発生するか等を説明したほか、新聞の見方等も説明し、その後も一か月に二回位喫茶店等で原告と会って、商品先物取引の説明と勧誘をしたが、一回当たり一時間半位の時間をかけ、市況展望とか週間商品データ等も原告に渡したこと、(二)平成五年四月からC課長の後任のD課長がBの上司として原告に対する商品先物取引の説明や勧誘をするようになり、従前同様利益計算、売買単位、追証等について説明したが、原告が神経質な性格に思えたことから、とりわけ、相場が思惑と反対に推移した場合の対処法について、幾つかの場合に分けて説明したほか、商品先物取引が現物総代金の一〇分の一以下で行う取引で非常に危険性も高いことを説明したこと、(三)原告は、先物取引についてはしばらく様子を見ようとの態度で、初めて金の先物取引の委託を被告にしたのは、最初にBから勧誘を受けてから約一年二か月後の平成五年九月八日であり、また、その頃の被告からの書面によるアンケートに対し、原告は、取引経過によっては利益を得ることのほか、逆に損失となる危険性があるが、取引している商品について損益計算ができるかとの質問について、できると回答をしている上、商品先物取引委託ガイドの内容や追証について理解していると回答していること、(三)原告は、右(二)のとおり平成五年九月八日に金の先物取引を始めたが、取引(買い玉)枚数は五枚と慎重な態度を採り、一時急落して値洗損が出たときに、D課長に対し、やはり相場は難しいと述べたが、その後価格が反騰し、同年一〇月四日に手仕舞して約一一万円の利益を得たこと、(四)原告は、同年一二月一六日、銀の高騰が続いていたことから、下落に転ずるとの予測のもとに、六五枚の売り玉を建て、さらに同月二八日に四〇枚、同月三〇日に三〇枚の売り玉を建てたが、平成六年一月下旬頃から銀の相場が乱高下し、一時二〇〇万円を超える値洗益が出たものの、その後高騰したため、D課長は、原告と対策を相談し、売建玉の一部を手仕舞することも勧めたが、原告は、限月まで時間があることを理由にこれを入れず、両建にしてその後の相場展開に応じて利の乗った方を手仕舞する方法を採ることとし、そのための追加委託保証金の預託を行うこととしたこと、(五)原告は、同年五月からゴムの先物取引をするようになったが、ゴム相場は値動が早いことから、基本的に利食いを重ねる方針を採り、損の出ている建玉は決済を避けてそのまま持つこととし、上げ相場の時に売り建玉を残したまま、買い建玉による利食対応をする等の取引態様であったこと、(六)原告が被告に対し商品先物取引の委託をする場合には、被告の従業員の助言によらず、自分の判断に基づいて指し値をすることが多く、また、銀やゴムの取引について両建玉のものがあるが(そのうちには、同じ日あるいは翌日にかけて両建になる取引もあった。)、右(四)及び(五)で述べたような経過でなされたものであって、原告の判断によるものであったこと、(七)本件取引中には、原告が海外旅行に出掛けている短期間に限り、事前に原告と取り決めた具体的な基準、方針に基づきD課長が任されて行い、事後に原告に報告したものもないわけではなかったが、原告がこれに異議を述べたことはなく、D課長から原告に対してなされる原告の取引に関する相場状況やその日の一般的な相場に関する日々の報告、及び被告から原告に送付される売買報告書や残高照合通知書に対しても、原告が自分の意思に沿わないものがある等の苦情を述べたことはなく、また、原告は、残高照会回答書を積極的に出す方であったが、その回答の内容は、通知書のとおり間違いないとの箇所に○印を付けたものであるか、又は特に記載のないものであったこと、以上の事実が認められ、他方、BやD課長において、被告の手数料稼ぎのため、原告をして本件取引を反復継続させたものと認めるべき的確な証拠はないから、これらの事情に照らして考えれば、被告の従業員であるBやD課長において、請求原因3の違法行為をしたとはいえない。

四  以上によれば、その他の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は、理由がない。

第四結論

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋勝男)

<以下省略>

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